JuneBrideに憧れて
第二部-小さな未来
・・・あれから、3年が経ち。 俺たちは無事高校を卒業した。
向こうの親も、俺の事を認めてくれてるようで、 杏奈の頼みもあり、来年 6月に入籍する予定まで決まっていた。
今はまだ9月。
半年以上時間がある・・・ まだ「同棲」しているだけだが。
実家の仕事をさせてもらえるようになった俺は、毎日働いて、休みの日には杏奈と町に遊びにいったりなんかしてた。
平和な毎日だった
そう ついさっきまでは。
ほんの数分前の事になる
突然、杏奈が倒れた。
公園でのんびりしてた杏奈が、急にだ。
話しかけても返事をしなかったので、すぐに救急車を呼んで、病院へ向かった・・・。
杏奈が、悪ふざけでこんな事するはずもない・・・。
俺は心配でパニックに陥っていた。
9月16日
青空が綺麗に澄み渡っている日だった。
手術室の明かりが灯る。
・・・杏奈は 大丈夫だろうか・・
──ついさっきまで、あんなに元気そうにしてたのに・・・。
さっきまで笑っていた、確かに杏奈は元気そうだった。
ずっとそんな事が頭の中を駆け巡る
何時間か経ったのか、部屋から、一人の医者が出てくる...
「先生! あいつは・・ 杏奈は大丈夫なんですか!?」
医者は、表情を少し曇らせこう言う・・・。
「一命は取り止めました・・・、でも・・・」
「そう、長くは持たないかも・・・しれません...」
「──残念ながら・・・。」
長くても3ヶ月 と、そう聞かされた。
「本人には言わないでください。 症状が悪化してしまう事もありますので…」
──さっきまで元気そうにしてた人間が・・・そんな…
カタカナで小難しい病名は覚えられなかった、けど。
未だにはっきりとした治療法が見つかっていない、難病だと言う事
そして、余命が告げられた事
これだけを覚えてる
意識は戻ったようだが、次 いつまた発作が起こるかもわからない。
その発作が起きた時・・・ それが最後になるだろう、とそうも言われた。
杏奈は、しばらくその病院に入院する事になった・・。
意識もはっきりしていて、こんなに元気そうなのに
会えなくなるかもしれない
そう思うと 言い知れない悲しみが身を包んだ。
「・・・ねぇ、優くん?」
「──ん?」
「どうしたの? 深刻な顔して・・・、 私、大丈夫だよ?」
杏奈がこっちを見て微笑みかける・・。
『コンコン・・・』
誰か来た様だ、病室の扉が開く・・・。
「あれ、真也と・・・柴咲さん・・」
「こんにちは、亜子ちゃん、柳川くん。」
「杏奈ちゃんが倒れたって聞いたからさ、飛んできちゃったよ・・・。大丈夫なの?」
「ぁ、これ・・・ お花持ってきました・・。」
「柳川くん、ありがとう 綺麗だね。 私は大丈夫だよ。」
「そっか、よかった・・。」
あの時以来、この4人で会う事は多くなっていた。
「そういえばさ、私、二人がどうやって付き合うようになったのか聞きたいなぁ・・。」
「こ、こら杏奈・・。」
「んー・・・、私はいいけど、真也君 話してもいぃ?」
「うん、いいよ」
「ったく、まぁいいけど・・・」
「えっとね・・・」
柴咲さんは、ゆっくりと話し始める・・。
(なんか、俺たちのと似てるなぁ・・・。)
「でさ、名前と誕生日を・・・」
「ぁ・・・ それ! 私も・・・やろーと思ってたんだ♪」
杏奈は、恥ずかしそうに鞄から小さなメモを取り出す・・。
「杏奈・・・ それ、もしかしてずっと持ってたの・・・?」
「ぅん! 大事な思い出がつまってる・・。」
俺の名前と、誕生日の下に、杏奈の名前と誕生日が書かれてる・・。
「へぇ~、いいなぁ~・・。 私のは、燃やしちゃったからなぁ・・。」
「僕は、燃やさずにあるよ。燃やす勇気がなかっただけなんだけど。」
「でも、思い出ってさ、やっぱ残しときたいじゃない?」
(大事な思い出・・・か...)
俺は、杏奈の持ってる小さなメモを見つめ、心の中でそうつぶやいた...
そろそろ、面会時間が終わるようなので、柴咲さんと真也は帰らせる事にした。
「じゃあ、僕たちは帰るね。 お大事に・・・。」
「ぅん! 来てくれてありがとうね。」
「杏奈ちゃん、また遊ぼうね!」
「ぅん!」
「じゃあ、とりあえず俺も手続きだけ済ませてくるよ。」
「うん! 待ってるね♪」
俺たちは、そう言って病室を後にした・・。
「でも、杏奈さん 元気そうでよかったね。」
「ほんと、安心したわ・・。」
・・・こいつらには、言わないといけない気がする・・・。
「あの・・・さ、その事なんだけど・・。」
「どうしたの? そんな顔して・・」
たった一言話すだけなのに、こんなに悲しい感覚に襲われるなんて・・・。
口を開くと、自分がわからなくなるような辛い感覚が身を包んだ・・。
「あいつは・・・ 杏奈は、もう長くないらしいんだ・・・。」
・・・3ヶ月、 杏奈といる時間に確かに俺は、「永遠」を感じていた。
でも、こんなの・・・。
「ど、どうして!? あんなに元気そうだったのに・・・。」
もしかしたら杏奈は、俺たちに心配かけさせないように 元気に振舞っていただけなのかもしれない。
本当は苦しいのに、辛いのに・・。
「──それで、後どのくらい・・・?」
「持って、三ヶ月・・・」
しばしの間、沈黙が流れる・・。
「もう、どうにもできないの・・・?」
俺は、涙をこらえるのに必死で、ただ、黙って頷く事しかできなかった。
まだ、自分でも現実を受け入れられない。
深い悲しみだけが、俺の世界を優しく包んでいった・・。
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